浦和地方裁判所 平成10年(行ウ)19号 判決 2000年3月06日
原告
飯島ハツ
右訴訟代理人弁護士
青木康國
同
山下清兵衛
被告
越谷税務署長 児島昭英
右指定代理人
戸谷博子
同
佐藤陽比古
同
笹崎好一郎
同
中村孝
同
永塚光一
同
田口勉
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告が平成八年七月九日付けでした原告の平成五年分所得税の更正のうち、納付すべき税額一五三四万三五〇〇円を超える部分(ただし、いずれも異議決定により一部取り消された後のもの)及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、埼玉県北葛飾郡松伏町が施行する越谷都市計画事業外前野特定土地区画整理事業施行地区内の仮換地である九五街区四画地の土地(地積三六一平方メートル)及び同九五街区五画地の土地(地積三六一平方メートル)(以下、右各土地をあわせて「本件土地」という。)を所有していたが、平成五年七月二日、本件土地を、株式会社住産(以下「住産」という。)に対し、一億〇九二〇万円で譲渡した。
2 原告は、本件土地の譲渡に係る所得について、租税特別措置法(平成六年法律第二二号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第三一条の二第三項の規定に基づき、平成五年分の所得税について、原告と住産との土地売買契約書、確約書、土地改良事業換地処分登記済証及び仮換地の使用収益開始日の通知(以上の書面を、以下「本件添付書類」という。)を添付し、分離長期譲渡所得の金額一億〇二六四万円、所得控除の合計金額三五万円、課税分離長期譲渡所得金額一億〇二二九万円、納付すべき税額一五三四万三五〇〇円と記載した確定申告書を、法定申告期限までに被告に提出して確定申告した。
3 住産は、本件土地を四区画に区分し、うち一区画(地積一八一・〇四平方メートル。以下「本件土地(一)」という。)を、その上に自ら建物を建築した上、同建物と共に佐藤公也外一名に譲渡し、その余の三区画のうち、一区画(地積一八〇・七一平方メートル。以下「本件土地(二)」という。)を、平成六年二月六日付けで、渡辺とも子(以下「渡辺」という。)に、同月七日付けで、一区画(地積一八〇・九七平方メートル。以下「本件土地(三)」という。)を額賀喜八郎(以下「喜八郎」という。)及び額賀昌子(以下「昌子」という。)に、一区画(地積一八〇・八七平方メートル。以下「本件土地(四)」という。)を同年七月九日付けで、市薗優(以下「市薗」という。)に、それぞれ、いずれも建築条件付きで譲渡した。そして、住産は、平成六年二月六日に渡辺との間において、同月七日に喜八郎及び昌子との間において、同年七月九日に市薗との間において、それぞれに譲渡した土地上に建物を建築する旨の各建築工事請負契約を締結し、これに基づいて右各土地上に建物を建築した。右各建物について、渡辺及び喜八郎は、同年四月七日、市薗は、同年一〇月四日にいずれも自らを建築主として建築確認申請を行い、渡辺は同年九月一九日付けで、喜八郎は同月三〇日付けで、市薗は同七年四月六日付けで、各建物の検査済証の交付を受けた。
4 原告は、被告から、本件土地(二)ないし(四)については、住産が建築主になっていないとの指摘を受け、被告に対し、住産が右各土地の取得者から請け負って各建物を建築したことの証明として、各建築請負契約書及び各工事完成引渡証明書の写し(以上の書面を、以下「本件追完書類」という。)を提出した。
5 被告は、原告に対し、平成八年七月九日付けで、分離長期譲渡所得の金額一億〇二六四万円、所得控除の合計金額三五万円、課税分離長期譲渡所得金額一億〇二二八万九〇〇〇円、納付すべき税額二六八〇万〇二〇〇円とする所得税更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の額を一一四万五〇〇〇円とする過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行った。
6 原告は、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、平成八年九月三日、異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年一二月一七日、本件更正処分の一部を取り消し(納付すべき税額二六七九万七二〇〇円)、本件賦課決定処分に対する異議申立ては棄却する旨の異議決定をした。
さらに、原告は、右異議決定の原処分に不服があるとして、平成九年一月一六日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、同所長は、平成一〇年三月三日、右審査請求を棄却する旨の裁決をした。
7 本件更正処分(異議決定により一部取り消された後のもの)及び本件賦課決定処分は、その内容に瑕疵があり、違法である。
8 よって、原告は、被告に対し、本件更正処分(異議決定により一部取り消された後のもの)及び本件賦課決定処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1、2及び4ないし6は、認める。
2 請求原因3のうち、本件土地(二)ないし(四)の住産から渡辺、喜八郎及び昌子並びに市薗への売買が、建築条件付きであることは知らない。その余は、認める。
3 請求原因7は、争う。
三 被告の主張(本件更正処分及び本件賦課決定処分の根拠)
1 本件更正処分
(一) 分離課税の長期譲渡所得の金額 一億〇二六四万円
右金額は、原告が本件土地を住産に対して譲渡したことによる所得であり、次の(1)及び(2)の合計額である。
(1) 特定所得 二五九三万〇四一一円
右金額は、次の<1>の金額から<2>及び<3>の金額を控除した額である。
<1> 譲渡収入金額 二七三二万一五〇五円
右金額は、原告が住産に本件土地を譲渡したことによる収入一億〇九二〇万円のうち、次の計算により、住産が本件土地(一)(一八一・〇四平方メートル)の譲渡に係る収入金額である(計算式は次のとおり)。
109,200,000円 × 181.04m2 / 723,59m2=27,321,505円
(本件土地の譲渡収入金額) (本件土地(一)の地積) (本件土地の地積)
<2> 取得費 一三六万六〇七五円
<3> 譲渡に要した費用の額 二万五〇一九円
(2) 一般所得 七六七〇万九五八九円
右金額は、次の<1>の金額から<2>、<3>及び<4>の金額を控除した額である。
<1> 譲渡収入金額 八一八七万八四九五円
右金額は、原告が住産に本件土地を譲渡したことによる収入のうち、住産が渡辺、喜八郎及び昌子並びに市薗に対して譲渡した本件土地(二)ないし(四)(合計五四二・五五平方メートル)の譲渡に係る収入金額である(計算式は次のとおり)。
109,200,000円 - 27,321,505円 = 81,878,495円
(本件土地の譲渡収入金額) (本件土地(一)にかかる収入金額)
<2> 取得費 四〇九万三九二五円
<3> 譲渡に要した費用 七万四九八一円
<4> 譲渡所得の特別控除額 一〇〇万円
(二) 所得控除額 三五万円
(三) 課税分離長期譲渡所得金額 一億〇二二八万九〇〇〇円
右金額は、特定所得に係る課税分離長期譲渡所得金額二五九三万円(国税通則法(以下「通則法」という。)一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)と一般所得に係る課税分離長期譲渡所得金額七六三五万九〇〇〇円(一般所得に係る分離長期譲渡所金額七六七〇万九五八九円から所得控除額三五万円を控除し、通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)の合計金額である。
(四) 納付すべき税額 二六七九万七二〇〇円
右金額は、前記(三)の課税分離長期譲渡所得金額一億〇二二八万九〇〇〇円のうち、特定所得に係る課税分離長期譲渡所得金額二五九三万円に、措置法三一条の二第一項に規定する税率一〇〇分の一五を乗じて計算した金額三八八万九五〇〇円と一般所得に係る課税分離長期譲渡所得金額七六三五万九〇〇〇円に措置法三一条一項に規定する税率一〇〇分の三〇を乗じて計算した金額二二九〇万七七〇〇円の合計金額である。
(五) 右(四)の納付べき税額は、本件更正処分に係る納付すべき額と同額であるから、本件更正処分は適法である。
2 過少申告加算税
原告は、通則法六六条一項により、本件更正処分により新たに納付すべきこととなった税額一一四五万円(ただし、通則法一一八条三項により一万円未満の端数切り捨て)に、一〇〇分の一〇を乗じて算出した金額一一四万五〇〇〇円の過少申告加算税を課されることになるから、右金額は、本件賦課決定処分は、適法である。
四 被告の主張に対する認否
1 抗弁1(一)の事実は、認める。
2 抗弁1(一)(1)及び(2)については、本件土地(二)ないし(四)の譲渡につき、措置法三一条の二の適用がないとすれば、被告主張のとおりの金額となることは認めるが、本件においては、同条を適用して計算すべきである。
3 抗弁1(二)の事実は、認める。
4 抗弁1(三)については、本件土地(二)ないし(四)の譲渡につき、措置法三一条の二の適用がないとすれば、被告主張のとおりの金額となることは認めるが、本件においては、同条を適用して計算すべきである。
5 抗弁1(四)、(五)及び抗弁2は、争う。
五 原告の主張
1 措置法三一条の二第二項一〇号(以下「本件規定」という。)の解釈
本件規定に定める「住宅又は中高層の耐火共同住宅の建設を行う個人又は法人」は、建設された住宅の建築基準法上の建築主であることを要するものではなく、建築主から当該住宅の建設を請け負い、これを建設した者を含むと解すべきである。
すなわち、実務上、本件規定に基づく軽減税率の適用を求めて、直接の売主から土地を購入する一般顧客は、少ないのであって、ほとんどは建売業者等の不動産業者が右軽減税率の説明をして、土地を売却させ、買主となり、さらにこれを販売する場合であるから、本件規定は、転売を予定したものであり、本件のように、土地を購入して、その土地に建物を建築することを前提に転売した場合にも適用されるべきである。
本件規定の立法趣旨は、優良な住宅地の供給の促進にあるのであるから、建売業者等が土地を取得し、本件規定の要件を満たす住宅又は中高層の耐火共同住宅(以下「特例建物」という。)を建設して売却する場合と特例建物を建築する前提で土地を転売し、当該建売業者が買主から請け負って特例建物を建設した場合とを別異に取り扱う理由はない。また、本件規定をこのように解釈しても、「土地転がし」に利用されて弊害をもたらすおそれもない。
2 租税特別措置法施行規則(平成六年大蔵省令第四一号による改正前のもの。以下「措置法規則」という。)一三条の三第五項四号による証明について
右のとおり、本件規定は、土地の買受人が請負人として建物を建設する場合も含むものと解すべきところ、右場合に該当することの証明としては、大蔵省令で要求されている建築確認に関する書類と検査済書を税務署に提出することで足りると解すべきである。
そして、原告は、本件添付書類に加え、本件追完書類を提出したのであるから、原告が本件添付書類には不足はなく、本件土地(二)ないし(四)の譲渡が本件規定に該当することが証明されているというべきである。
六 原告の主張に対する反論
1 本件規定の解釈
本件規定は、地価高騰を抑制しながら優良な住宅地の供給等の促進を図る目的で、本来課せられるべき税負担を軽減するために設けられたものであるから、他の一般納税者との間の課税の公平及び土地転がしや安易な土地開発のために本件規定が利用されて種々の弊害を生じることを防止する見地から、その解釈適用は、厳格にされるべきである。
本件規定に定めるに「建設を行う」とは、当該譲渡における譲受人が右土地等の譲受人たる地位にあるまま建築主となって特例建物を建設する場合に限定されるというべきである。なぜなら、このような場合には、土地等の権利関係に紛糾を来したり、土地転がしに利用されたりすることなく、譲受人が右住宅地の安定した供給主体となることができ、本件規定の立法趣旨に合致するからである。
原告主張のように、特例建物の建設を行うものに、特例建物の建設を請け負って、これを建設する者を含むと解するときは、右土地等を譲り受けた者が、これを他に転売し、転々譲渡された後、当初の譲受人から特例建物の建設を請け負う場合にも本件規定が適用されることとなるから、これが「土地転がし」に利用されるなどの弊害を生ずるおそれがあり、本件規定の立法趣旨に反することになる。
しかるに、原告からの本件土地の譲受人たる住産は、本件土地を四区画に分割した上、これを転売しており、その一部(本件土地(二)ないし(四))について、転得者が建築主となって建物を建設したものであり、住産は、右転得者から建物の建築工事を請け負ったにすぎない。したがって、住産は、本件規定に定める特例建物の建設を行う者には該当しないから、本件土地(二)ないし(四)の譲渡については、措置法三条の二第一項の軽減税率の特例の適用はない。
2 措置法規則一三条の三第五項四号による証明について
原告が確定申告書に添付したのは本件添付書類のみであり、措置法規則一三条の三第五項四号イに規定する書類である住宅の建設に関する事業概要書及び当該土地等の所在地を明らかにする地形図を確定申告書に添付していないから、特例建物の建設を行う個人又は法人に対する土地等の譲渡に該当することにつき、大蔵省令で定めるところによる証明がされたとはいえない。
第三証拠
本件記録中、書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
一 当事者間に争いがない事実及び甲第六号証の一ないし三、乙第五号証の一ないし第六号証の三によると、次の事実が認められる。
1 原告は、平成五年七月二日、住産に対し、埼玉県北葛飾郡松伏町が施行する越谷都市計画事業外前野特定土地区画整理事業施行地区内の仮換地である本件土地を一億〇九二〇円で譲渡し、住産は、右買い受けた本件土地を四区画に分割し、本件土地(一)については、同土地上の上に建物を建築した上で、土地付き建物として、佐藤公也及び小杉金吾に対し売り渡した。
2 住産は、平成六年二月六日、渡辺との間で、本件土地(二)を三二五三万八〇〇〇円で売り渡す旨の売買契約を締結するとともに、本件土地(二)の上に建物を建築する旨の請負契約を締結し、本件土地(二)の上に、右契約に従って建物の施工をし、同人は、同年四月七日、完成した右建物に関する建築確認申請を行い、同年九月一九日、検査済証の交付を受けた。
3 住産は、平成六年四月七日、喜八郎及び昌子との間で、本件土地(三)を三五〇〇万円で売り渡す旨の売買契約を締結するとともに、本件土地(三)の上に建物を建築する旨の請負契約を締結し、本件土地(三)の上に右請負契約に従って建物を施工し、喜八郎は、同年四月七日、完成した右建物に関する建築確認
申請を行い、同年九月三〇日、検査済証の交付を受けた。
4 住産は、平成六年七月九日、市薗との間で、本件土地(四)を二九〇〇万円で売り渡す旨の売買契約を締結するとともに、本件土地(四)の建物を建築する旨の請負契約を締結し、本件土地(四)の上に右請負契約に従って建物の施工をし、同人は、同年一〇月四日、完成した右建物に関する建築確認申請を行い、平成七年四月六日、検査済証の交付を受けた。
二 原告は、原告が住産に本件土地を譲渡したことによる収入のうち、本件土地(二)ないし(四)に係る収入について、本件規定による軽減税率の特例の適用があると主張する。
1 措置法三一条の二第一項は、昭和五四年度の税制改正により、当時、用地取得難が深刻化しつつあるといわれた小中学校用地等の公的土地の取得の円滑化及びその緊急性が高いといわれた都市地域における住環境として望ましい優良な住宅地等の供給に寄与する土地等の譲渡に限定して、所得税の負担の軽減を図るために創設されたものであり、一定の土地等の譲渡が、「優良住宅地等のための譲渡」に該当する場合の長期譲渡所得の課税につき、軽減税率の特例を定め、同条二項柱書き及び一〇号は、特例建物の建設を行う個人又は法人に対する土地等(土地区画整理法による土地区画事業の同法二条四項に規定する施行地区内の土地等で同法九八条一項の規定による仮換他の指定されたものに限る。)の譲渡のうち、その譲渡が当該指定の効力発生の日から三年を経過する日の属する年の一二月三一日までの間に行われるもので、当該譲渡をした土地等につき仮換地の指定がされた土地等が特例建物の用に供されるものであって、右の土地等の譲渡に該当することにつき大蔵省令の定めるところにより証明されたものをいう旨規定する。また、措置法三一条の二第三項は、当該譲渡が、その譲渡の日から原則として同日以後二年を経過する日の属する年の一二月三一日までの期間内に同条第三項七号から一〇号までに掲げる土地等の譲渡に該当することとなることが確実であると大蔵省令で定めるところにより証明がされたものを「確定優良住宅地等予定地」として「優良住宅地等」についてと同様の軽減税率の特例を適用する旨規定し、措置法規則一三条の三第五項四号は、措置法三一条の二第三項に係る証明がされた土地等の譲渡とは、当該土地等の買取りをする特例建物の建設を行う個人又は法人から交付を受けた当該建設の事業概要書及び当該土地等の所在地を明らかにする地形図等を確定申告書に添付することによって証明された土地等の譲渡である旨規定する。
乙第二号証及び弁論の全趣旨によれば、措置法三一条の二は、昭和五五年度の税制改正により、土地区画整理事業は、宅地利用の増進を図る事業であり、その施行後の宅地は、健全な市街地形成の基礎ともなるにもかかわらず、旧地主が区画整理後の土地をそのまま保有し、事業の完成が直ちに住宅の供給増加にはつながらない実情にあったため、仮換地の指定後、早期に住宅地として譲渡される場合を、所得税の負担の軽減を図ることにより、事業施行土地の供給の促進を図る観点から、優良住宅地等のための譲渡に追加したものであることが認められる。
したがって、措置法三一条の二第三項、同法二項一〇号が適用されるのは、当該土地等の譲渡が、特例建物の建設を行う個人又は法人に対しされた場合に限られると解されるところ、本件においては、原告は、住産に本件土地を売却し、住産は、これを四区画に分筆した上、本件土地(二)を渡辺に、本件土地(三)を喜八郎及び昌子に、本件土地(四)を市薗にそれぞれ売却する旨の売買契約を締結し、渡辺ら各人が、それぞれ右各土地上に建物を建築するについて、住産との間で注文者を渡辺ら、請負人を住産とする請負契約を締結し(甲第六号証の一ないし三)、建物完成後は、渡辺らを各名義人とする建築確認申請を行い(乙第五号証一ないし三)、建築基準法七条三項に定める建築検査済証の交付を受けたのであるから、住産は、本件土地(一)の場合と異なり、原告から買い受けた本件土地(二)ないし(四)の土地を渡辺らに売り渡し、注文者らを渡辺らとする住宅建築に関する請負契約を締結したというのであるから、住産は、右請負契約の請負人として右各建築工事を施工したと認めるのが相当である。したがって、住産は、本件規定に定める「当該土地等の譲渡を受けて住宅又は中高層の耐火共同住宅建築を行う法人」に該当しないので、原告の住産に対する本件土地(二)ないし(四)の譲渡は、本件軽減税率の適用を受けないことは明らかである。
この点、証人渡辺扶美子は、住産の買受けは当然に転売を予定するものであり、住産は、土地の購入者から住宅の建築を請け負い、これを建設したのであるから、本件規定に定める土地を取得して特例建物を建設売却する場合に該当し、住産と渡辺らが右建物を建築するに際して、住産との間で右各請負契約を締結したのは、住宅ローンの融資を多く受けるための便宜である等と右主張に沿う供述をする。しかしながら、住産は、原告から本件土地(二)ないし(四)を買い受けた後、右のとおり、本件土地(二)ないし(四)を渡辺らに売り渡す旨の売買契約を締結した上で、渡辺らとの間で請負契約を締結し、渡辺らが各人名義で建築確認申請及び建築検査済証の交付を受けたのであり、住産は、右請負契約に基づいて建物の建築工事を行った施工業者であるというべきであるから、原告の本件土地(二)ないし(四)の譲渡が、本件軽減税率の適用を受けないことは、前記説示のとおりである。
以上のとおり、原告の主張は、理由がない。
また、この点、原告は、本件規定の「当該土地等の譲渡を受けて住宅又は中高層の耐火共同住宅の建設を行う法人」には、当該土地等の譲渡を転売して、住宅又は中高層の耐火共同住宅の建設を請け負った者も含まれると主張するが、前記本件規定の趣旨にかんがみれば、本件規定が、本来課されるべき税負担を特別の配慮から軽減する特例を設けるものであって、税負担の公平の見地から、その解釈適用は厳格になされるべきであり、原告の右主張は、採用できない。
2 以上によれば、原告の住産に対する本件土地(二)ないし(四)の譲渡については、措置法三一の二第三項、同条二項一〇号の適用があると解することはできず、その余の点について判断するまでもなく、原告の主張は理由がないことに帰する。
三 そうすると、被告の主張1(一)及び(二)の各事実が当事者間に争いがないことは前記のとおりであり、措置法三一の二第一項の軽減税率の特例の適用が認められない場合の特定所得及び一般所得の金額が同(一)(1)及び(2)のとおりであることは当事者間に争いがないから、所得税法及び措置法にしたがって算出された納付すべき税額は、二六七九万七二〇〇円となる。
したがって、本件更正処分は適法であり、また、本件賦課決定処分は、本件更正処分によって新たに納付すべきこととなる税額に基づき、当時施行の通則法にしたがって適法に算出された過少申告加算税を賦課するものであるから、適法である。
四 よって、原告の本訴請求は、理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成一一年九月一三日)
(裁判長裁判官 星野雅紀 裁判官 白井幸夫 裁判官 蛭川明彦)